香水の背後にある物語 〜『American Legends』とマイケル・エドワーズの香りの旅〜
香りは私たちに様々な感情や思い出をもたらします。その香りを形作る香水の背後には、多くのストーリーとクリエイティブな努力が隠されています。近年、新たな興味を引く作品として『American Legends: The Evolution of American Fragrances』という本が登場しました。この本は香水愛好家にとって魅力的なコーヒーテーブルブックであり、アメリカの香水の歴史を詳細に描いています。 本書の著者であるマイケル・エドワーズは、香水界で非常に名の知れた専門家です。彼の新作では、カルバン・クラインの「CK One」やルラボの「Santal 33」といった、広く愛されている香りの背後にある物語が詳述されており、その過程で、彼の魅力的な視点が垣間見えます。たとえば、エスティ・ローダーが「馬の尿のような匂い」を感じたために、一度はある香り全体を却下したというエピソードも紹介されています。これは彼女の鋭い嗅覚と、魅力的な人間味を強調するエピソードと言えるでしょう。 エドワーズは、エスティ・ローダーの1973年の香水「プライベートコレクション」の背景に触れ、その香りがどのようにして開発されたのかを明かしています。実際に、嗅ぎ取られた不快な匂い分子は別の成分の副産物として生成されたものであり、最終的には調整が加えられて問題が解決されたといいます。このように、本書は単なる香水の歴史のみならず、それを取り巻く文化的、経済的背景まで深く探る構成となっています。 また、この本は40のアメリカンフレグランスの独創性を表すものとして、特に重要な香りを選ぶ際には三つの基準がありました。それは、新たなノートやコードを導入し競合他社が模倣を図ったもの、香水業界を変えた技術革新を用いたもの、そして新たなトレンドを作ったものです。例えば、1973年に発売されたレブロンの「チャーリー」は、女性が初めて自ら購入した香水として知られており、これは今の香水市場における一大転換点となりました。 エドワーズの取り組みは香水業界で広く認知されています。彼は、『Fragrances of the World』というオンラインデータベースを構築し、小売業者や香水クリエイターにとって欠かせないリソースとして利用されています。オンラインで香水を購入する消費者をサポートするためのオンライン香水ファインダーの構築にも尽力しており、この努力が他に類を見ない包括的な視点を提供しています。 香水の背後には、単なる美学以上の歴史や文化が息づいています。それを深く理解することで、単なる香りを超えた豊かな体験が得られるのです。私たちが普段楽しんでいる香りの影には、そこにたどり着くまでの数々の物語と、制作者たちの熱意と創意工夫があります。『American Legends』はそのすべてを網羅し、香水の深遠な魅力を余すところなく伝えてくれます。